very sweet verry 3
全く、油断も隙もあったもんじゃなかった。
あの中村って整備員、野明を見つける度に声を掛けてる。
野明が出動から戻った時。
野明が勤務を終えて帰る時。
昼食の出前の注文を整備班員に聞きに行った時。
……上げたらキリが無い。
いくらお子様で鈍感な野明でもさすがに気付くだろうと思ったが.
……気付かないんだ、これが。
おまけに野明の奴、例のシャンプーを寮でも使っているらしく、毎日あの甘酸っぱい香りをまとってる。
いい加減にしてくれないかな〜。
仕事上では俺と野明はパートナーなんだから、二課棟の中では同じ行動を取ってる事が多い。
だから嫌でも目に入る。
野明と中村が話してる光景が。
その光景に俺は想像以上のダメージを喰らっていた。
野明が笑う。
あいつと話をして。
そんな光景を毎日何回も見てしまって、俺は凄まじく機嫌が悪かった。
野明に、何となく嫌味な事をつい言いそうになる。
どうしたらいいんだ……。
野明と俺は付き合ってる訳じゃない。
野明が誰と付き合おうと、俺が口を出すべき事じゃない。
だけど
野明が誰かと付き合うなんて考えたくない!
もういっそ告白してしまおうか……。
だが、そんな俺の邪な考えを払拭するかのように、あっけなく騒動は終結を迎えた。
「ねぇ、遊馬……」
終業直後、その日茶坊主だった俺は,みんなのカップを給湯室で洗っていた。
台所に向かって立っている俺の背中に,野明が背中合わせで寄りかかってきた。
トン、と柔らかくて暖かい野明の背中。
何か込み入った話がある時、野明はこうやって俺に背中を預けてくる。
俺しか知らない野明。
「……どうした? 何かあったのか?」
たぶん中村の事だろう。
わかっていたが、口には出さない。
あえて冷静に野明に問い掛ける。
「あのね……」
一言言って黙り込む。
言葉を選んでいるのか。
それとも……。
俺に言うべきなのか、言わない方がいいのか……。
逡巡しているのが、野明の背中から伝わってきた。
「……整備班の中村さんに告白されちゃった……」
!!!!!
あわや、カップをシンクに落としそうになったものの,俺は努めて冷静を装った。
あんの野郎〜……。
ずいぶんと手ぇ早いじゃねぇか!
「……それで? 野明は何て答えたんだ?」
落ち着け俺。
「……断った」
「……は……?」
今、何て言った?
断った?
俺の聞き間違いか?
「……だから、お断りしたの」
「……あいつ、ずいぶんとお前の事気に入ってたみたいじゃないか。 優しそうだし、仕事は真面目らしいし……」
俺の口から飛び出すのは、俺の気持ちと正反対の言葉。
優しいだけの男なんてろくな男じゃない!
仕事を真面目にするのは当たり前!
「……うん。でもね……それだけじゃないかな、中村さんて……」
「は?……どういう意味だ?」
「……中村さんてさ、確かに優しいけど……彼氏とかってさ、優しいだけじゃ駄目だと思うんだ、あたし」
「……ふぅん。それで?」
……こいつ、以外と考え方大人だな。
「仕事は真面目にするのは当たり前でしょ?」
「……そうだな」
俺は洗い終わったカップをすすいで水切りカゴに置きながら,野明の話を聞いていた。
「……それにさ、中村さんて,あたしのいいとこしか見てないよ、きっと」
「いいとこ?」
「そ……いいとこって言うか……表しか見てない。 ホントのあたしを見てない」
野明が小さく溜め息をついた。
「それに……あたし、中村さんの事何も知らないもの……」
……そうだよな……。
いくら二課棟に24時間の待機任務でいたとしても、俺達みたくずっと顔を突き合わせてる訳じゃないもんな、整備班とは……。
カップをすすぎ終えて、水道を止める。
目の前に掛かっているタオルで手を拭いた。
「あたし今仕事に集中してたいし……それに……」
野明が言葉を止めた。
「それに……何だ?」
「中村さんといるより、遊馬といた方がいい」
「……へ……?」
「だって、遊馬はあたしのこときちんと叱ってくれるでしょ……? 優しいだけじゃなくてさ……あたしの弱いとこも……わかってくれてる……」
……確かにそうだ。
野明の弱いとこも俺はわかってる。
こうやって、話をしてくる時は……弱ったりしてる時。
「操縦者と指揮担当は一心同体だからな」
俺はそのまま身体をずらした。
「ひゃあっ!」
俺の背中に体重を掛けていた野明がバランスを崩して後ろにひっくり返りそうになる。
左腕で野明の身体を支えて、そのまま野明の身体を抱きしめた。
「な、な、何すんの遊馬……!」
野明が動揺するのを無視して、右手で野明の頭をかき抱いた。
すうっと深呼吸して、野明の香りを胸一杯に吸い込む。
甘酸っぱいイチゴの香りで胸が満たされてく。
「ちょ、ちょっと遊馬……誰かに見られたら……」
俺の胸に押し付けられた野明の顔は見えないけど
きっとイチゴみたいに真っ赤だろうな。
「野明、お前このシャンプー非番の日に俺と会う時以外使うな!」
「え? え? 何で!?」
「何でもいいから使うな! 操縦者は指揮担当の指示に従うべし! わかったか!?」
「……わかった」
野明はまだ熟してないイチゴ。
甘い香りを放ってるけど口にしたら、きっとすっぱいんだろうな……
時が来て熟れるまで,ゆっくりと待つ事にするか。
今はまだ……。
それにしても野明、頼むから男心ってやつも少しは理解してくれ!
疲れた……。
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