故郷 1



 硝子の風鈴がチリンと透明な音を立てて揺れた。
 網戸の向こう側で夕闇が押し迫るのを遊馬ははボンヤリと見つめていた。
 
 遊馬はお盆に野明と2人で野明の実家である北海道に来ていた。
 亡くなっている遊馬の母親文枝と、兄一騎の墓参りを野明と二人で初日に済ませ二日目に北海道に向かった。
 三日目である今日、野明の両親は、車で二時間ほどのところにある町に住んでいる親戚の家に出掛けていた。
 遊馬と野明は留守番として家に残っていた。
 
 東京とは違って、北海道の空気は嫌な湿気をまとわずに、さらさらと遊馬の肌を滑っていく。
 
 遊馬は風の心地よさに思わず溜め息をついた。

「遊馬。 西瓜食べる?」

 ぼんやりと思考を廻らせていた遊馬に、台所に立っていた野明が声をかけた。
 ああ、と遊馬が返事をすると、ザクッと西瓜を切る小気味いい音が遊馬の耳に届いた。

「はい。 お待たせ」

「サンキュー」

 盆にのせられたみずみずしい赤が遊馬の膝近くに置かれ、野明に促されるまま遊馬は西瓜に手をのばした。
 三角の山をかじり、甘い汁が口中に広がった時、喉が渇いていた事に遊馬は初めて気が付いた。
 西瓜で喉を潤しながら、網戸の向こう側に視線を向ける。
 庭と呼べるほど広くはないものの、野明の母親の趣味なのだろう、鉢植えが所狭しと置かれている。
 遊馬の視線の先を見て、野明が困った様に笑った。

「お母ちゃんが好きなんだ。 狭いのに」

 野明はクスクスと笑い、西瓜をかじった。

「いいじゃん。 俺は好きだな。 生命力があって。 ただ広いだけの庭は俺は嫌だ」

 遊馬の言葉に野明がキョトンとした。

 野明の母親はキチンと手入れをしているのだろう。
 枯れたりしている植木は一つもない。
 庭は生命力に溢れていた。
 ただ手入れをされているのではなく、植木の一つ一つに愛情が注がれているのがよくわかる。
 自分の実家の模造品の様な庭とは大違いだと遊馬は思った。

「ねぇ? 遊馬の実家の庭は広いの?」

「……ああ」

 野明の素直な問いに遊馬も素直に返答した。
 そして実家のことをぼんやりと脳裏に思い浮かべた。



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