声にならない
「あ〜、降ってきやがった」
カーテンを開けて空を見上げると、雪が静かに舞い落ちていた。
音もなく、静かに降り続く雪を見ながら、熱いコーヒーを口に運ぶ。
「ん……」
微かに聞こえた声の方を見ると、クラピカがまるで猫のように丸くなってぐっすりと眠っている。
起こさないように、足を忍ばせそっと近づき、ベッドに腰を下ろした。
ベッドサイドのルームライトに照らされて、ほんのりと橙色に染まったクラピカの髪に指を通す。
熟睡しているのだろう。
こうして髪に指を通しても、クラピカは身じろぎ一つしない。
ただ、髪に触れているだけなのに、声にならないくらい愛しくて、思わず笑みが溢れてしまう。
どうしたら幸せにしてやれるだろう。
自らの命も省みず、過酷な死闘に身を投じて。
その度に苦しみ、傷ついて。
出来ることなら、そんな生き方を止めさせたいのに。
でも、そんなことは言えなくて。
同胞の仇討ちは、今のクラピカの全てだから。
俺はこうしてクラピカを見守り続けることしか出来なくて。
せめて、こうして俺の側にいる時くらいは、身も心も安らげるように。
いつも、こいつは疲れ果てて俺の元にやってくる。
食事はもちろん、睡眠もほとんどとっていないのだろう。
真っ青なやつれた顔をして、ふらふらしながら。
そんなお前を見て、俺がどんなに胸が痛むかわからないだろう?
それでも、そんな思いは口にしないで、俺は笑顔でこいつを迎え入れる。
いつか、お前が心から笑ってくれる日を願って。
「……」
髪に触れてる手に気付いたのか、クラピカの口元が微かに動いて、ころりと寝返りを打った。
そろそろ目を覚ましそうだ。
俺は、ベッドサイドにカップを置いて立ち上がり、キッチンへと向かう。
クラピカのお気に入りの茶葉で、暖かいミルクティーを作るために。
こんな小さな幸せがたくさん集まって、大きな幸せになるように。
そんな思いは、雪のように、俺の心に降り積もっていく。
大好きな安全地帯の曲『声にならない』をイメージして。
バラードで、とても素敵な曲です。
機会があれば是非聴いてみて下さい。