あの頃へ
キッチンで、クラピカのホットミルクティーと、俺のブラックコーヒーを入れて寝室に戻ると、スタンドライトの淡い灯りの中、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
毛布に包まって。
窓の外では、音もなく雪が降り続いていた。
「……よく降るな」
「……ああ」
「……積もるな、きっと」
「……ああ」
サイドボードにカップを置きながらクラピカにそう話し掛けるも、クラピカの瞳は逸らされることなく、降り続く雪を見つめたままだ。
俺はそのまま無遠慮にベッドに上がり、クラピカを包んでいる毛布をそっと外し、後ろからクラピカを抱きしめた。
そして二人で毛布に包まった。
窓の外を見ながら二人でカップを傾け、何も話さないまま、どれくらいの時間そうしていただろう。
「……クルタの村のことを思い出していた」
ふいにクラピカが口を開いた。
「……そうか」
一応、平静を装ってはいたが、クラピカが村のことを自分から話す事なんて今までなかったから、少し驚いたのは事実だ。
「……こんな雪の日は、みんなで雪合戦をした。 そして雪だるまを作った。 雪に足をとられながら鬼ごっこもした」
ぽつり、ぽつりとクラピカが話すのを、俺は黙って聞いていた。
事実、返す言葉など見つからなかったから。
「散々雪まみれになって遊んで日が暮れる頃、みんな家へ帰るんだ。 そして家へ帰ると父さまと母さまが笑って迎えてくれて。 そして母さまが作ってくれた野菜スープを家族三人で食べた。 ……あのスープの味は今でも忘れられない」
「美味かったんだろう? お袋さんが作ってくれたスープは」
「もちろん」
小さく笑って、クラピカは話を続けた。
「そのスープに入れる野菜も春になって雪が溶けたら、みんなで畑に植えるんだ。 村の共有の畑で色々な野菜を植えて、みんなで育てて、みんなで収穫して、みんなで平等に分ける」
小さな村で、村人総出で畑仕事に精を出す様子が目に浮かぶようだった。
「秋には、冬に備えて山に栗拾いにも行くんだ。 栗の他にも、山葡萄、野イチゴも。 そして野イチゴで、母さまがジャムを作るんだ。 その野イチゴのジャムを乗せたパンケーキが大好きだった」
そして、柔らかい溜め息をついて、クラピカがぽそりと言った。
「……君を連れて行きたいよ、レオリオ。 春に野原一面に咲き誇る花や、夏のどこまでも続く緑の山並みや、秋の赤く染まる稜線や、冬の……」
クラピカを抱きしめていた俺の手に、暖かい滴が落ちた。
「……いつか連れて行ってくれよ」
俺はクラピカを背中から抱きしめたまま言葉を続けた。
「そして、あの頃の空や、風を俺にも見せてくれよ」
「……そうだな」
「いつか作ってやるよ。 お袋さんのパンケーキ」
すると、鼻を啜りながらクラピカが笑って言った。
「母さまは料理上手だった。 君には無理だ」
「何だとう!?」
今まで泣いてたくせに、この憎まれ口!
コイツはよ〜っ!
むかついた俺は、そのままクラピカを抱きしめたままベッドに転がした。
その勢いで、クラピカの上に覆い被さり、視線を合わせて、どちらからともなく静かにくちびるを重ねた。
するとクラピカが華がほころぶように笑った。
「約束するよ。 いつかきっと君を……」
きっと今頃、クルタの村は静かに雪の中で眠っているだろう。
春になって雪が溶ける頃、クルタの村へ行ったら、あの頃のクラピカに出会えるだろうか。
『あの頃へ、いつか君を連れて行きたい』
安全地帯の曲「あの頃へ」。
北海道の原風景を思い出させてくれる一曲ですが、わたしの中のクルタの村のイメージに重なる曲でもあります。
やっぱり安全地帯ええわ〜←?