secret White Day
「ほれ」
「え? 何?」
ビールのジョッキを傾けている野明に、俺はラッピングされた小さな箱を手渡した。
「今日、ホワイトデーだろ? マグカップのお返し」
「え? え? 夕食がお返しじゃなかったの?」
そう。
今日はホワイトデー。
最初は居酒屋で夕食をご馳走すればいいかなと思ったんだが、バレンタインの日、野明は俺にマグカップをくれた。
好きな女にプレゼントをもらって嬉しくないわけがない。
で、昨日の終業後、普段なら絶対1人では行かないデパートに俺は向かった。
そして今日、野明を居酒屋に誘った。
「ねぇ、開けてもいい?」
「ああ」
野明が嬉しそうに包装紙を剥がしていく。
へぇ。
一気にびりびりと破くと思ったけど、丁寧にテープを剥がしてる。
こういうふとした野明の女らしい動作に弱いんだよな……。
「あ、マニキュア……」
小さな箱から取り出したマニキュアを、野明は居酒屋の蛍光灯に透かした。
「綺麗なピンク……」
「だろ? お前あんまりマニキュアとか付けないから、たまには女らしい物もいいかと思って」
「何それっ! 失礼だなぁ遊馬は!」
野明がぷうっと頬を膨らませて怒った。
「冗談だって! そんなに怒るなよ」
「ったく〜! でもまあいいか……遊馬、ありがとね」
野明が優しく微笑んだ。
「あ、忘れてた。 これ、おまけ」
「おまけ?」
ジーンズのポケットから取り出したキーホルダーを、野明の手のひらに落とした。
「これ……名前が彫ってある……」
「いいだろ?」
小さなシルバープレートに彫られた『NOAH』の文字。
「世界に一つしかないオリジナルだ」
野明が大事そうにキーホルダーを手のひらに包み込む。
「ありがと、遊馬……大事にするね」
そう言って微笑んだ野明はやっぱり可愛くて。
お前にはいつでもそうやって笑っていて欲しい。
野明を女子寮に送った後、俺も寮へと戻った。
殺風景な部屋の電気をつけると、テーブルの上に置かれたそれが蛍光灯に反射して鈍い光を放った。
俺はテーブルのそれを手に取った。
小さなシルバープレートに彫られた『ASUMA』の文字。
野明と一緒のキーホルダー。
俺はベッドに横たわってキーホルダーを眺めた。
デパートで照れながらピンクのマニキュアを買った後、偶然通りかかったシルバーアクセサリーの店で見つけたキーホルダー。
つまりペア。
これを眺めると野明がそばにいるような気分になる。
……いつか使えるといいな。
野明には内緒のホワイトデー……。