流星群



「遊馬っ、おはよっ!」

 まだ初夏だというのに、盛夏のような白い日差しの中、まるで暑さを感じないかのように身軽に、そして涼しげに野明が後ろから笑顔で駆けて来た。

 いつものように俺の肩をぽんっ、と軽く叩いて、俺の顔を覗き込んで笑う。


「おう。 今日も朝から元気だな」


 野明に、醜い自分を見られないように、俺は笑う。


 
 人に触れられるのが昔から苦手だった。

 好きで付き合ったはずの女にさえ、必要以上に触れられるのは嫌だった。

 なのに、いつからだろう。

 

 触られるのが嫌ではなくなったのは。



 それがいつからなのか、記憶も定かではない。



 でも、はっきりといえるのは、それは野明に出会ってから、ということ。


 
 男であるということも、もちろん女であるということも全く気にかけることなく、俺たちは触れ合っていた。
 大きな事件を解決した時などは、抱き合い、そして見つめあって笑った。
 
 野明の暖かい手に触れられることが嬉しかった。
 野明の細い腕に抱きしめられることも、『生きている』と言うことを実感出来る瞬間だった。

 

 なのに。

 俺は。



 野明に触れられること。
 
 そして野明に触ることに少しずつ恐怖を感じるようになっていた。



 もちろん野明が恐い訳じゃない。


 
 野明に触れられることはとても『幸せなこと』だった。



『遊馬が必要なんだよ』


 
 そう言われているような、今まで感じたことがないくらい心地のいい感覚。
 その感覚はいつの間にか大きく膨らんで、俺の中で『野明に触れらたい』と言う思いと共に、『野明に触れたい』と言う醜い感情に形を変えた。

 

 野明に触れたい。

 野明を自分だけのものにしたい。 

 野明を誰にも触らせたくない。



 誰かを好きになったら、それは至極当然な感情。



 でも、俺のこの感情は、野明を汚してしまう。

 そして、そんな感情を持ってしまった自分は酷く醜いと感じた。



 醜い自分。



 こんな醜い俺に、真っ直ぐな瞳で笑いかけて、そして触れてくる野明。



 嬉しい。
 こんな俺でも、野明は笑ってそばにいてくれる。
 


 でも、野明が俺に触れるたび、俺が野明に触れるたび。



 俺の醜い感情が。



 少しずつ、少しずつ。



 野明を汚してしまうような気がする。



 なのに、俺は。



 野明に触れたい。

 触れられたい。



 押さえられないこの感情を、一体どうしたらいい?



 野明が俺を呼んで、笑いかけてくれるたびに、俺の心はざわついて。


 
 こんなにも醜い自分を証明するだけ。


 
 どうか、醜い俺に気付かないで。
 醜い俺を見ないで。



 野明が触れられない俺なんて、何の必要も無い。



 だから、どうか『俺が必要』と言って。



 俺に触れて。

 そして、笑いかけて。

 



『貴方が触れない私なら 無いのと同じだから』