Peach Peach Peach!
夕食後、2人でのんびりとくつろいでTVを見ていた時、野明が言った。
「ねぇ、遊馬。 桃食べない?」
「お。 食べる」
遊馬の言葉に、台所に向かった野明は冷蔵庫から桃を取り出した。
果物ナイフと夏らしいガラスの器をテーブルに置き、野明はカーペットに腰を下ろし、桃の皮を剥き始めた。
甘い香りが広がる。
「はい。どうぞ」
「いただきま〜す」
みずみずしい桃にフォークを刺す。
桃から溢れ出る汁をこぼさないように、遊馬は口に運んだ。
桃を口に入れ噛んだ瞬間、口の中に甘い汁が溢れ出る。
「うん。 甘くて美味い」
遊馬の言葉に、野明が微笑んだ。
「あ、お茶入れるね」
野明が立ち上がり、果物ナイフを持って立ち上がった。。
遊馬はテレビを見ながら、桃の柔らかい食感と甘さを堪能していた。
普段、あまり果物を食べるほうではないが、よく冷えた甘い桃はやはり美味しい。
遊馬は、一つ、また一つと桃を口に運んでいた。
すると、
「あ〜っ!」
「え!?」
野明の悲鳴に、遊馬は手を止めた。
「な、何だよ! いきなり大きな声出すなよ!」
驚いた遊馬が野明を見ると、何故か野明が泣きそうな顔をして、遊馬の手元を見つめている。
「だって、桃が……!」
野明に言われ、遊馬が手元の器を見ると、野明がさっき剥いてくれた筈の桃がない。
「1人で食べちゃうなんてずるいよっ!」
「あ……」
最後の一切れは遊馬の手元のフォークに刺さっていて、今まさに遊馬の口に投入されるところであった。
「ご、ごめん」
遊馬は、素早く桃の刺さったフォークを器に置いた。
野明の分を残して置くのを、遊馬はすっかり忘れていた。
TVに夢中になっていたとはいえ、さすがに1人で全部食べてしまうのはあんまりである。
遊馬は素直に反省し謝罪した。
しかし、楽しみにしていた桃を食べられてしまった野明は、すっかりへそを曲げてしまった。
「すまん! 本当にすまん!」
遊馬の謝罪も無視して、むっつりと押し黙ったまま、野明は椅子に腰を下ろしお茶をすすり始めた。
「ごめん、野明。 美味かったからついつい……」
「知ってるもん! 『美味しい桃だよ』って八百屋のオジサンが言ってたから一緒に食べようと思って買ってきたのに……」
特車二課時代から、野明の食べ物への執着は人一倍であったことを、遊馬はすっかりと忘れていた。
戸棚に隠していたチョコレートや煎餅。
非常食のカップラーメンなどを遊馬が食べてしまい、いつも野明を怒らせてしまっていたことを、遊馬は思い出した。
食い意地の張り方は、まるで子供のようだった。
思わず、吹き出してしまいそうなる。
が、野明の刺さるような視線に気付き、遊馬は顔を引き締めた。
すると、野明が溜め息と一緒に、残念そうに肩を落とした。
「野明、ごめん」
遊馬が手を合わせて頭を下げる。
少しして、遊馬が顔を上げると、そっぽを向いていた野明がチラッと遊馬を見た。
すると、野明は正面を向き「あ〜ん」と大きく口を開けた。
(これは、桃を食べさせろと言うことか?)
まるで鳥のヒナのような野明の行動に、遊馬はまた吹き出しそうになったが、これ以上へそを曲げられると困るので、遊馬は大人しく野明に桃を食べさせようと、最後の桃が刺さったフォークを手に取った。
その時、遊馬にちょっとした悪戯心が芽生えた。
「遊馬〜、早く〜」
足をばたばたと動かしながら、野明は口を開けて待っている。
「わかったわかった」
すると遊馬は最後の桃を咥え、野明に顔を近付けた。
「ん」
遊馬が桃を咥え、野明に顔を寄せた。
「え!?」
遊馬の突拍子もない行動に、野明は戸惑った。
(た、食べたいけど……このままじゃ遊馬と……)
顔を真っ赤にしたまま固まっている野明の前に顔を寄せたまま、遊馬は動かない。
野明は覚悟を決めたように、遊馬に顔を近付けた。
そっと桃に口びるを寄せ、瞳を閉じ、口を開く。
柔らかい桃を咥え、ゆっくりと口を閉じようとした時、遊馬の口びるに野明の口びるが触れた。
瞬間、野明の身体がぴくんと震えた。
じわり、と桃から汁が溢れ出し、野明の口の端を伝い顎へと流れ落ちていく。
口の中の桃を咀嚼しようと、野明が口びるを離そうとした時、遊馬の大きな手がそれを封じた。
野明の頬を両手で挟み込み、遊馬は深く野明に口づけた。
苦しげに、野明が身じろぎするのもかまわずに、遊馬は桃の甘味と、柔らかな野明の口びるを堪能しつづけた。
そして、ゆっくりと名残惜しげに野明の口びるから離れると、頬に手を当てたまま、遊馬は野明を見つめていた。
激しい口づけで、口の中ですっかりとろけてしまった桃を野明が飲み込む。
潤んだ瞳で、遊馬を見つめる。
「……甘いだろ?」
「……うん」
遊馬の言葉に野明が微笑む。
「……遊馬」
「ん?」
「……もう一度……」
まるで桃のように、甘い野明の誘いの言葉。
野明にねだられるまま、桃の甘い汁で濡れた野明の口びるに、遊馬は再び口びるを重ねた。