調子が狂う



「おい」

「……ふえ……?」



 2人で夕飯をとっている時だった。


 
 野明の顔をよく見てみると……野明の顔が赤い。

 目は何となくとろんとしていて、いつもの力強さがない。



 俺は箸を置いて、野明の額に触れてみた。

 

 ……熱い。



「お前、熱あるじゃね〜か!」

「……熱……?
 あ〜……何かだるいと思ったんだけど……」

 焦点の合っていない目で、俺をぼんやりと見つめたまま野明は笑った。

「とにかく寝ろ」

 野明の手から箸を取り、テーブルに置いて俺は野明を抱き上げた。

「……」

 いつもなら冗談で抱き上げただけでも恥ずかしがって大暴れするのに、よほど身体がだるいらしく、野明は大人しく俺に身体を預けていた。



 野明を寝室のベッドに寝かせ体温計を手渡すと、野明は無言のまま体温計を脇に挟めた。

 ピピッと音が鳴り、野明が出した体温計を見てみると―

「……38.5℃」

 俺ははあっと小さく溜め息をついた。

 野明はあまり熱を出したりしないせいか、具合が悪くなっても口に出さない。

 俺に心配させたくないという理由らしいが、アホか! お前は!

 放っておいてひどくなったらどうするんだ!?

 もっと心配するだろうが!




 俺はすぐにキッチンに戻って、おじやを作り寝室に運んだ。

 もちろん解熱剤も一緒に。

「……これ、遊馬が作ってくれたの……?」

 野明の膝の上にお盆にのせた土鍋を置くと、不思議そうな顔で俺を見た。

「当たり前だろ? 俺以外に誰が作るんだ?」

「……そうだよね……」

 へへっと野明は小さく笑い、「いただきます」と手を合わせて、土鍋のおじやをレンゲですくい上げ、口に入れた。

「……美味しい……」

 野明がおじやを食べている間、俺はベッドの端に腰を下ろして野明の顔を見つめていた。

「……ごちそうさまでした……」

 野明が薬を飲んだのを確認して、俺は土鍋を持って立ち上がった。

「ゆっくり寝ろよ。 後でアイスでも買ってきてやるから」

「……遊馬……」

 小さな声で野明が俺を呼んだ。

「……ありがと……」

 耳を澄ましてやっと聞こえるくらいのか細い声。

「ば〜か。 早く寝ろ」

 そんな俺の言葉に、野明は小さく頷き笑った。



 キッチンに戻った俺は1人で夕食をとった。

 いつもなら、野明が目の前にいて笑っているはずなのに。

 野明がいないと、美味しいはずの食事も何だか味気なく感じる。



 1人の食事ってこんなに淋しかったっけ……。



 俺は席を立ち、寝室をそっと覗いた。

 薬が効いたのか、野明はぐっすりと眠っているようだ。



 部屋にそっと入って野明の額に手をのせる。



 野明の熱い額にかかった前髪を静かにかきあげながら、起こさない様に野明に語りかけた。

「……お前がいつもみたいに笑ってくれないと……何だか調子が狂う……。 ……いつも見たくお前が笑ってくれる様になるなら、おじやなんていくらでも作ってやるから……」

 

 






 早く元気になってくれよな……。