宝物(遊馬ver)
「遊馬さん。 お茶どうぞ」
「あ、ありがとう」
非番の前日の午後三時。
茶坊主の進士さんがお茶を入れてくれた。
デスクに湯呑み茶碗を置きながら、進士さんが俺の見ている情報誌を覗き込んだ。
「何見てるんですか?」
「ん? 情報誌。 明日、野明と何処に行こうかと思って……」
射る様な視線を感じて、俺は思わず顔を上げる。
そこには、いつもとは違う笑顔で、俺の顔を見つめる進士さんがいた。
「遊馬さんと泉さんて、ほんとに仲がいいですよね〜」
「仲いいって……。 だって仕事でコンビ組んでるんだぜ? 仲悪かったら仕事にならね〜よ」
今更何を言って……。
「……そういう意味じゃなくて……」
何だ?
そのあからさまに残念そうな顔は?
「あの……まさかとは思うんですけが……。 遊馬さん、気が付いてないんですか?」
「は? 何を?」
湯呑み茶碗を取ろうと伸ばした手を思わず止めてしまう。
「遊馬さんて、泉さんの事好きなんでしょ?」
「……は?」
……。
「な、何を言って……」
お、俺何で動揺してるんだ!?
落ち着け、俺!
「い、嫌だなぁ進士さん! 何を言って……」
し、心臓がうるさい。
「だってそうじゃなかったら、何で非番の度に泉さんと出掛けるんですか?」
「な、何でって……。 し、仕事でコンビ組んでるし、気心が知れてるし……」
何でそんな事聞くんだよっ!
「仕事でコンビ組んでるからって、普通非番まで一緒に出掛けたりしませんよ。 ねぇ、ひろみちゃん」
だからっ!
何でそこでひろみに話を振るんだっ!
「そ、そうですね……」
そこで赤くなるな
ひろみっ!
「たぶん……泉さんも同じ気持ちなんじゃないでしょうか……」
お、同じ気持ちって
何が!?
ひろみが頬を赤く染めながら、俯き加減で口を開いた。
「最近、泉さんすごく綺麗になったなって……それに……」
そ、それに何だ!?
「遊馬さん、以前と比べて表情が穏やかになった様な気が……」
「そ、それは……」
気のせい。
うん、きっとひろみの気のせい!!
「それは僕も思いました。 ……ねぇ、遊馬さん」
「な、何?」
進士さんが優しく微笑みながら俺を見た。
「遊馬さんが泉さんをすごく大事に思ってるの、よくわかりますよ」
「そ、そりゃパートナーだし……」
大事に決まってるじゃね〜か!
「遊馬さんも宝物を見つけたんですよ。 ……僕が多美子さんを見つけた様に」
……宝物?
野明が俺の?
「これまでの様に、これからも大事にしなきゃいけませんよ」
と、オフィスのドアが開く音がして、野明が太田と共に入ってきた。
「太田さんもたまにはイングラム磨いてあげなよ〜」
「泉こそたまにはリボルバーキャノンを磨かんかっ!」
野明の顔を見た途端、進士さんのさっきの言葉が脳裏に甦ってきた。
『遊馬さんて、泉さんの事好きなんでしょ?』
うわ〜!!
は、恥ずかしくて野明の顔見られね〜っ!!
「お疲れさまです。 お茶入れましたよ」
「おお」
「ありがとう、進士さん」
進士さんにお礼を言いながら、野明が自分の椅子に腰を下ろす。
「……遊馬?」
こ、こっちを見るな〜!
「どうしたの? 顔赤いよ?」
う、うわ〜!!
顔を近づけるな〜っ!!
「ち、ちょっと、遊馬! 熱あるんじゃないの?」
「な、ない! 熱なんかないから……!」
思わず椅子ごと後退してしまった。
「……そう?」
怪訝な顔をしている野明から視線を外して、勢いよく立ち上がる。
「で、電算室行ってくる! アルフォンスのデータ解析しないと……!」
「遊馬!?」
俺はそのままオフィスを飛び出した。
「……何なの? 進士さん、遊馬どうしたの?」
「さあ……」
アルフォンスのデータ解析をすると言って、オフィスを飛び出して電算室に篭ったものの、俺はただパソコンのモニターをぼんやりと眺めていた。
俺が野明の事を好き?
野明も同じ?
『遊馬さんも宝物を見つけたんですよ。 ……僕が多美子さんを見つけた様に』
野明が俺の宝物?
ずっと野明と一緒だった。
第二小隊に配属されてから。
いつの間にか、非番の日まで一緒にいる様になった。
野明といると気が楽だ。
野明の前だと変な意地を張らないでいられる。
野明は、本当のありのままの俺を受け止めてくれる。
……ああ、そうか。
進士さんは多美子さんと一緒にいる時、きっと本当の自分でいられるんだ。
俺も野明と一緒にいる時は、本当の自分でいられる。
進士さんにとって多美子さんは宝物。
俺にとっての宝物は野明なんだ……。
電算室を出ると、野明が小走りで駆け寄って来た。
「あ、遊馬。 今呼びに行こうと思ってたんだ。 もう終業だよ」
「ん。 帰るか」
俺が腕を上げ身体を思いっきり伸ばすと、野明がじっと顔を覗き込んで来た。
「……何だよ」
やっぱり野明の顔を見るのは少し恥ずかしいな……
「……遊馬さ、あたしに何か隠し事してるでしょ!?」
へ?
何だいきなり。
「俺が何でお前に隠し事するんだよ」
「じゃあ、さっき何であたしの顔見て逃げたの!?」
い!?
ちょっと待て!!
「あ、いや、別に逃げた訳じゃ……」
やべぇ……。
完全に誤解されてる……。
「あ! わかった! あたしが戸棚に隠してたチョコレート、食べたの遊馬しょ!?」
「はあ!? 何言ってんだお前!?」
「正直に言いなさい!!」
あ〜もう!!
何でこいつはこんなに食い意地が張ってるんだ!?
「遊馬っ!! 逃げるなっ!!」
野明に捕まらない様に俺は廊下を走った。
兄妹みたいなこんな関係を、続けるのも悪くない。
だけど
少し照れくさいけど
羽根の様に舞い降りてきたこの感情を
大事にしてみよう。
俺の宝物は
野明。