Merry Christmas to you.
「ねぇ、何処行くの?」
「いいところ」
俺は野明の手を引いて、ある場所を目指してビルの間の道を歩いていた。
ぎゅっと握った野明の手のぬくもりが愛しくて。
今日はクリスマスイブ。
野明の手を引いて歩きながら空を見上げてみる。
うっすらと見える星明り。
息を吐くとほわっと白い吐息が揺れて消える。
「ほら、もうすぐだ」
人が集まり、ざわざわと賑わっている、ビルの谷間にぽっかりと開いた広場。
日本人だけじゃなく、様々な国の人達も多く集まっている。
昼間ならきっと、近くのOL達が集まってのんびりとおしゃべりするような、小さな公園みたいな場所。
人だかりに近付いて立ち止まる。
「……なぁに? 何か始まるの」
野明がいぶかしい顔で俺を見上げた。
俺は空いていた左腕の腕時計を見た。
「……11時45分。 あと15分」
「15分? あと15分で何が始まるの?」
「まあ、待ってな」
俺が笑いながら言うと、野明は少しだけ考え込んだ。
が、すぐに「うん」と頷いた。
「あ」
少しづつ増えていく人波に押されて、野明がよろめいた。
俺は繋いでいた手を軽く引いて、背中から野明を抱きしめた。
「大丈夫か?」
頭の上から声をかける。
「うん、大丈夫」
野明が上を向いて、上目遣いで微笑んだ。
抱きしめた野明の身体から伝わるぬくもりを感じながら、広場の中心を2人で見つめる。
最小限の灯りしか点灯されていないので、広場の中心に何があるのかはっきりとは見えない。
「寒くないか?」
「うん。 遊馬が抱きしめてくれてるから暖かいよ」
「そうか」
俺を見上げた野明の顔を覗き込む。
くすぐったいような不思議な感覚に、2人でクスクスと笑う。
ふと、俺は野明の目の前に腕を上げて時計を見た。
そして、野明と一緒に時間を確認する。
「11時59分……そろそろだな」
「え?」
ざわざわとした人ごみの何処からか、声が上がった。
「……9!……8!……7!……」
カウントダウンが始まった。
腕の中の野明がの身体が緊張で強張っているのがわかる。
「……6!……5!……4!……3!……2!……1!……」
その瞬間、
「Merry Christmas!」
広場中の灯りが点灯され、光が溢れた。
周りの街路樹には綺麗なブルーのライトが付けられて、冬の街を鮮やかに照らし出した。
広場の中央の一番大きな街路樹には、ひときわ鮮やかなブルーの光を放つイルミネーションが、木の上から流れるように飾り付けられて。
人々が口々に「Merry Christma!」と嬉しそうに言葉を交わす中、野明だけがぼんやりと中央のイルミネーションの方を見つめていた。
「野明?」
「……幸せな光景だね」
野明の視線の先に目をやると、幸せそうに笑いながらキスを交わす恋人達。
「……俺達もするか?」
野明の耳元に小さな声で囁くと、見る見る間に、野明の頬が赤くなった。
「……し、しないよっ!」
「何で? みんなしてるじゃん」
「は、恥かしいからしないっ!」
涙目で抵抗する野明と向かい合って、そっと手を取る。
周りを何気なく見渡すと、みんな口々に挨拶をしながら、キスを交わしている。
俺達と同じように、最初は照れていた奴らも、少しづつ周りの空気に溶け込んでキスを交わしている。
そんな様子を固まって見ている野明の頬を、両手でそっと包み込む。
「あ……遊馬……」
「Merry Christmas 野明」
触れるだけの軽いキスを口びるに落とすと、野明の身体からふっと緊張が溶け出した。
「遊馬……」
「ん?」
言葉の合間に、野明の口びるにキスを落とす。
何度も何度も。
「……Merry Christmas」
俺の目を見つめて、野明が呟いた。
野明のその言葉を合図に、俺達は深いキスを交わした。
柔らかいさざなみのような、暖かくて幸せな空気が、
口びるを
言葉を
身体を
そして心を満たしていく。
「遊馬、大好き」
言葉と同時に野明の腕が伸びてきて、俺を抱きしめた。
「俺も……」
俺も、野明を優しく抱きしめる。
鮮やかなイルミネーション。
人のぬくもり。
大好きな人が隣りにいる幸せ。
俺はこの瞬間を決して忘れない。
Merry Christmas to you.