星に願いを
「何してるんだ?」
「ん? 七夕の飾りつけてんの」
8月に入ったばかりのある晩。
ベランダにしゃがみ込んでいる野明に遊馬が声を掛けた。
「はぁ? 七夕? ……先月やっただろ?」
「うん。 でもね。 北海道では七夕って8月7日にするんだよ」
ちょうど遊馬の腰くらいの高さの笹に折り紙で作ったと思われる飾りを付けながら、野明は顔も上げずに答えた。
「8月7日……ちょうど1ヶ月遅れか……。 ……あ、もしかして旧暦に合わせてんのか?」
「正解」
野明が立ち上がり、遊馬の顔を見て笑った。
「同じ日本なのに、違うんだな」
「でも日付は違っても、見えてる星空は一緒だよ」
野明がベランダに肘をのせ、夜空を見上げた。
遊馬も野明の隣に立って一緒に見上げる。
都心から見上げる星空は霞んでいて、天の川は見えなかった。
しかし、見えなくても天の川が数え切れない星を湛えて、夜空を流れているのだろう。
「あ、そうだ」
野明は部屋の中に入り、何かを手にして再びベランダに戻ってきた。
「はい。 お願い事書いて」
遊馬に手渡されたのは、切られた折り紙。
「短冊か」
「そう。 お願い事を書いて笹に飾ろう」
短冊にサインペンで2人は願い事を書いた。
『旅行に行きたい』
『休みが欲しい』
など、ささやかな願い事を短冊に書き込んでいく。
「遊馬、夢がないな〜!」
「お前だって俺の願い事と大して変わらんだろう!」
笑いながら、2人で笹に短冊を飾っていく。
子供に戻った様な気分で、2人ははしゃいだ。
子供の頃は、短冊に書いた願い事は全て叶うと信じていた。
大人になってそれは夢物語だと知ってしまったけれど。
それでも願わずにいられない。
すべての短冊を飾り終わる。
湿気のこもる夜風に笹が揺れ、短冊がなびいている。
「叶うといいね」
「そうだな」
顔を見合わせて笑う。
子供の頃に短冊に書いた願い事はいくつ叶えられただろう。
今短冊に書いた願い事はいくつ叶うのだろう。
「ビールでも飲むか」
「うん」
遊馬の後に続いて部屋に戻ろうとした野明がふと足を止めた。
ゆっくりと振り返り、夜空を見上げる。
霞んだ夜空で微かに星が瞬いている。
「野明?」
「今行くよ」
短冊がざあっと乾いた音を立てて揺れた。
『好きな人と一緒にずっといられます様に』
夜が明けて星が消えて行くまで、その短冊は野明の代わりに空を見上げていた。