Happy flavor cake
焼き上がったチョコレートケーキをオーブンから取り出した時、あたしは思わず溜め息をついてしまった。
そして、チョコの甘くて暖かい香りに、知らず知らずに笑みがこぼれる。
遊馬、喜んでくれるかな?
今年は遊馬に何をプレゼントしようか。
ずっとずっと悩んでた。
そうしたら、そんなあたしの様子を見てた熊耳さんが、こっそりアドバイスしてくれた。
『手作りのケーキはどう?』って。
あたし、ケーキなんて作ったことないし、『難しそう』って言ったら、『簡単に出来るチョコレートケーキの作り方を教えてあげる』って、熊耳さんが笑って言ってくれた。
非番の日に、熊耳さんの家にお邪魔して早速ケーキ作り開始。
遊馬との待ち合わせは夕方。
それまでに頑張って美味しいケーキを作ろう。
熊耳さんは教えてくれるだけ。
あたしが作らなきゃ意味がないからね。
熊耳さんに細かく教えてもらいながら、小麦粉をふるって、卵を泡立てて……。
小さい頃、お母ちゃんと一緒にホットケーキ作ったことを思い出して思わず笑ってしまったりして。
でも、ホットケーキと違ってずいぶんややこしい!
『もったり』とか『切るようにさっくり混ぜる』とか。
材料と格闘しながらも、何とか全部混ぜ終わって。
型に流し込んで、オーブンへ。
上手く膨らむかな?
キチンと焼けるかな?
心配で、オーブンの前をうろうろしてたら、熊耳さんに笑われちゃった。
だって、初めてのケーキだから、キチンと出来るかどうか不安なんだもの。
でも、あたしの不安をよそにオーブンから広がる甘い幸せな香り。
嬉しくて嬉しくて歓声を上げると、熊耳さんは苦笑いしてた。
そして、焼き上がったケーキをオーブンから取り出して、冷やして切り分けて。
お皿に取り分けて、仕上げに粉砂糖をふりかけて……。
出来上がったチョコレートケーキをまじまじと見つめる。
熊耳さんがフォークで切り分けたケーキを口に運ぶのを、まるで審判が下されるような気分であたしは見てた。
すると熊耳さんが、あたしの顔を見て笑って言った。
『美味しい』って!
ホント!?
熊耳さんの嬉しい言葉に、ほっとしながらあたしもケーキを口に入れた。
……うん、美味しい!
そんなに甘くないし、これなら遊馬も喜んでくれるかも。
初めてだから、失敗するかもって思ってたのに、すごく上手く出来てすごく嬉しい!
部屋中に広がった、甘い幸せな香りを楽しみながら、ケーキを箱に入れて。
『きっと大丈夫よ。 頑張って』
熊耳さんの力強くて暖かい言葉に見送られて、遊馬との待ち合わせの場所へ。
手にしたペーパーバッグの中には、幸せを詰め込んだ美味しいプレゼント。
もう日も傾いて、風もちょっと冷たいけど。
緊張して心臓がばくばく言ってるけど。
遊馬の嬉しそうな笑顔が見たいから。
遊馬の『美味しい』って言葉が聞きたいから、こうして外で待っているのも楽しい。
「あ、遊馬ぁ!」
バレンタインのディスプレイの向こうに見つけた遊馬に大きく手を振って。
遊馬も、この香りで幸せになってくれますように。