Chocolate kiss!



「ねぇ、遊馬! お好み焼き買ってもいい?」

「お前なぁ! さっき焼きイカ食ったばかりだろうが!」

 行き交う人ごみの中、遊馬は溜め息をついた。

 今日はマンションの近くの商店街の夏祭りだった。
 混雑を予想していたので、遊馬は行かないつもりだった。
 が、野明が『浴衣を着てお祭りに行きたい!』とゆずらなかったため、仕方なく遊馬は野明についてきたのだった。

 でも、来てよかったかもしれない。

 遊馬は思った。

 綺麗な水色の地に、白い大きな百合の花の柄の浴衣を着た野明は、いつもの雰囲気とはうって変わって、あでやかな姿を遊馬の目に映していた。

 いつものカジュアルな格好も似合っているが、たまにはこんな格好もいい。

 子供の様にはしゃぎながら、楽しそうに出店を見て歩く野明を見ながら遊馬は微笑んだ。

 しかし…。

 野明の手元には、今買ったばかりのお好み焼きとリンゴ飴。
 そしてわたあめ、アメリカンドッグがしっかりと握られていた。

 やっぱり野明は『花より団子』らしい。

「遊馬! これ持って!」

 戦利品を強引に遊馬に手渡すと、野明は器用に人ごみをすり抜けていく。

「お、おい! 野明!」

 野明がたどりついた屋台は『クレープ屋』だった。
 
 やっとの思いで野明に追いついた遊馬は、思わずあんぐりと口を開けた。

「この後に及んでまだ食い物を買うのか! お前は!」

「これで最後! おじさん! チョコバナナね!」

 生クリームののったバナナチョコクレープを受け取る野明はとても幸せそうだ。

 遊馬はがっくりと肩を落とした。

「どしたの、遊馬」

「いや……。 もう気は済んだか?」

「うん!」

 遊馬の気も知らずに、野明は足取りも軽く歩き出す。
 そして、マンションに向かっている途中、声を上げた。

「……我慢出来ない」

「あ?」

「クレープ食べる!」

 遊馬が次の言葉を口にする前に、野明は大きく口を開きクレープにかぶりついた。 

「ん〜っ! 甘くて美味しい!」

「……そうかよ」

 満面の笑みでクレープを堪能する野明を見て、遊馬の口からはもう溜め息しか出てこなかった。

 人ごみの中を歩き回った遊馬は疲れきっていた。
 
 そんな遊馬の疲れも知らず、野明は一心不乱にクレープを食べていた。
 そして、黙り込んでいる遊馬に気付いた野明が微笑んだ。

「遊馬も一口食べる?」

 あ〜ん、と遊馬の口元にクレープを近付ける。
 どうやら、遊馬もクレープが食べたいのだろうと思ったらしい。

「……いや、俺はいい」

「え〜? 美味しいよ〜?」

 上目遣いで遊馬の顔を覗き込む野明。
 
「俺は甘いものが苦手だといつも言って……」

「……遊馬?」

 再び黙り込んだ遊馬は、野明の口元を凝視していた。
 
 野明の口元。
 そこにはクレープのチョコレートが付いていた。

 何か考えついたらしい遊馬がにやりと笑った

「……やっぱり俺も食べようかな」

「もう、やっぱり食べたかったんじゃない。 はい」

 野明がさし出したクレープに見向きもせず、遊馬は野明の口元に口びるを寄せた。

「俺はこっちがいい」

 遊馬は、野明の口元に付いたチョコレートをぺろりと舐め上げた。

「!!!!!」

 目を大きく見開いて、顔を真っ赤にして固まった野明の目を覗き込んで、遊馬はまたにやりと笑った。

「ん。 甘くて美味い。 ごちそうさん」

「あ、あ、あすっ!!! こ、こんなとっ!!!」

 どうやら『遊馬! こんなところで!』と言いたいらしい。

「今日はお前に付き合って連れ回されたからな。
 俺へのご褒美だ」



 

 チョコレートよりも野明との甘いキスがいい。