抱きしめたいのはあなただけ
春の淡い朝日がカーテンの隙間から差し込んで、俺の意識はゆっくりと水面へと浮上した。
うっすらと目を開けて、そのまま寝返りをうつ。
が、そこにはいるべき人の姿は無かった。
野明がいない。
まだ覚醒しきらない頭のまま、勢い良く身体を起こした。
「……野明?」
シーツが冷たい。
俺はそのままベッドから起き上がり、足元にたたんで置いてあったジーンズに脚を通した。
野明が俺を置いて何処かへ行ってしまった。
野明を探しに行かなければ。
冷たい汗が額に浮いてくる。
ジーンズのボタンを留めるのさえもどかしい。
顔も洗う事も忘れ、俺は玄関へと向かった。
一体何処へ……!
スニーカーを履こうとした瞬間、カチャとドアの鍵が回った。
ドアを開けて入って来たのは
「……野明……」
「わぁっ! びっくりした!」
俺が玄関にいるとは思わなかったらしい。
野明が飛び上がった。
「遊馬……どうしたの?」
ぼんやりと立ち尽くした俺の顔を見た野明が、俺の顔を覗き込んだ。
パニックを起こした俺の頭。
真っ白になったまま、何も考えられない。
俺は何も言えずに野明を抱きしめた。
「ち、ちょっと! 遊馬!」
身じろぐ野明の身体を強く抱きしめる。
「……遊馬?……」
「……お前が何処かに行ってしまったかと思った……」
野明の細い腕が俺の背中に回される。
俺の肩に野明が顔をのせて、頭を優しく撫でた。
「……行かないよ、何処にも……あたしの居場所はここだもん……」
俺の背中でガサッと何かが音を立てた。
「ちょっとコンビニに買い物に行って来ただけだよ。ずっと残業で買い物に行けなかったから、冷蔵庫に何もなくって……」
野明が俺から離れようと身体を動かした。
でも俺は更に力強く身体を抱きしめた。
「……っ……遊馬……苦しいよっ……」
小さな野明の身体。
だけど、誰よりも大きな心を持ってる。
野明がいないと不安になる。
何故だろう。
ずっと一人だった俺。
これまでもこれからもずっと一人だと思ってた。
でも、野明に恋をしてわかった事。
愛しい人とずっといたいと言う思い。
そして、一緒の時を過ごしてしまったら
もう一人ではいられない。
「……遊馬……」
耳元で野明が囁く。
「……もう少しこのまま……」
こうして抱きしめたいのは、
野明。お前だけ……。