ありがとう
携帯電話が鳴って、大好きなメロディが流れる。
あたしは携帯を手に取り、通話ボタンを押した。
「もしもし。 野明?」
あたしの言葉に
電話の向こうで遊馬が一瞬黙り込む。
「……ごめん」
聞こえてきた声は、暗くて沈んだ声。
「長引きそうだね」
「ああ。 なるべく早く終わらせたかったんだが……」
「仕方ないよ。 仕事なんだから」
本当なら、遊馬と2人で1泊2日の旅行に行く予定だった。
でも、急に遊馬は呼び出されてしまった。
遊馬が担当のプロジェクトのミス。
遊馬が行かない訳にはいかない。
ずっと楽しみにしてたんだ。
たった1泊2日の旅行だけど、遊馬と2人でのんびりしたかった。
……ううん、違う。
あたしは遊馬をのんびりさせてあげたかったの。
ずっと忙しくて、遊馬は休日返上で仕事をしてた。
あたしは、実験レイバーを動かして
そのデータ収集が終われば仕事は終了だけど、
遊馬の本当の仕事はそこから。
データを報告するために
実験結果をキチンとまとめなければならない。
遊馬の小さい頃からの夢。
レイバーを作ること。
夢を叶えるために遊馬は毎日頑張ってる。
今、こうしてあたしと電話をしている時間だって惜しいはず。
でも、遊馬はいつも電話をくれる。
こういう時、大事にされてるんだなって心から思う。
すごく嬉しい。
「ごめんな。 今度埋め合わせするから」
「うん。 楽しみにしてる」
頑張って。
そう言って電話を切った。
大変なのに。
忙しいのに。
遊馬はあたしに気を遣ってくれる。
嬉しくて
涙が出そう。
口が悪くて、ぶっきらぼうだけど
根は優しい人。
こんなにあたしのことを思ってくれる人は
きっと遊馬しかいない。
遊馬。
大事にしてくれて
愛してくれて
ありがとう。
今度こそゆっくり旅行に行こうね。