雨に咲く傘の花



 せっかくの休日なのに、今日は雨。
 薄灰色の雲が空一面をおおって、空が重そうに見える。
 我慢できずに空から落ちた水滴は、地上に静かに降り注いで。

 細かな水滴は、空気をも曇らせているように見える。

 
 
 遊馬との待ち合わせのカフェの窓。
 ガラス越しに地上を見下ろすと、みな傘を差して足早に何処かを目指してる。



『花が咲いてるみたい』



 水滴が伝って落ちる窓ガラスを通して見ると、色とりどりの傘が揺れる様は、まるで雨の中で咲いた花のよう。
 ゆらゆらと揺れて、風に吹かれているみたい。

 雨は苦手だけど、たまにこんな風に過ごすのも悪くない。

「悪い。 待ったか?」

 声の方を見ると、席に着こうとした遊馬が笑っていた。
 遊馬の着ている濃紺のシャツの肩口が、雨で色を変えている。
 どうやら屋内から見ているよりも雨脚は強いらしい。

「ううん、大丈夫」

「せっかくの休日なのに雨かよ」

 忌々しそうに遊馬が低い声で呟いた。
 店員にアイスコーヒーを注文し、ため息をつく。

「雨でも楽しいこともあるよ」

「?」

 窓の外を見つめて呟く。
 遊馬が不思議そうな顔をして、あたしと同じように窓の外を見たので、あたしはガラス越しに地上を指さした。

「雨に咲く傘の花」

 一瞬きょとんとしたような表情をした遊馬が、クスリと小さく笑った。

「何で笑うんだよう」

 何となく面白くなくて、あたしは思わずふてくされてしまう。

「いや、言われてみれば本当にそう見えるな〜って思って……」

 遊馬が窓の外を見ながら笑った。

「でしょ〜?」

 遊馬も同じ風に思ってくれたことが嬉しくて、あたしはまた窓の外に視線を戻す。



「ほら、あの赤い傘はチューリップ」

「じゃあ、あの傘は黄色だから向日葵か?」

「いいね、向日葵! あの傘は桜……」



 雨は色々な記憶が蘇る。
 あたしも、そしてきっと遊馬も。

 でも、こんな些細なことでも楽しい気分になれる。




 雨の記憶が、優しい思い出に変わりますよう…。